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花みち元気塾通信 2020年11月号「そばにいるだけで言葉はいらない」

高校生の頃、母に友達より成績が悪かったことを一言言われて、
急に頭に血が上って母が洗っているお皿を右手で上からたたいた。
親指に割れたお皿のかけらが当たって見る間に血が溢れた。

母に自宅一階の医院の診療室で包帯を巻いてもらった。
母はその時私を叱ることも嫌味を言うことなく、苦笑いしながら。
私もだまってただ巻いてもらう包帯を見つめていた。

その母は今はもういないが、
何10年もたった今でもその時の親指の傷は神経が切れたのだろうか、まだ違和感がある。
たいして勉強した記憶はないが、
その時にはストレスとなっていたのだろうか。
大学に入ってからはそんなことはなくなった。

入試が近いこの時期、自習する子が増える。
子ども達が長い時間勉強をして帰った後、机と床を掃除すると髪の毛がたくさん落ちているのに気がつく。
私も昔髪の毛を一本一本触って、少しでもざらつく髪は抜いていたことがある。
今年は髪の毛が落ちている量が例年より多い気がする。
ストレスの多い年となっているのかもしれない。

でもそれを子ども達に伝えることはしていないし、
これからも言うつもりはない。

私の子どもがいつも爪を噛んで、
爪切りで爪を切ったことが一度もなかった。
何度も爪を噛まないように注意したが、聞かないので、
その時の担任の先生に相談した時、
その先生が「私も同じで今でも噛んでしまう」
と笑って話され、その後気にしなくなった。

人はいつもすべて満足した気持ちに満たされて生きている訳ではないだろう。
その時代、環境、その場の状況、多くが複雑に絡み合って気持ちができあがっている。
思い通りにならない気持ちがストレスとなって表れるのだろうか。
人は誰一人同じ心の状態になっていないはずなので、
家族でも友達でもすべてを分かることは難しいに違いない。
そういった時欲しいのは、優しい言葉や慰めの言葉ではなく、
笑顔でそばにいることなのではないか。

その時見える空の青さや風の心地よさ、空気の透明感、葉の色づきなどを一緒に感じること、
そこに少しのジョークがあればもうそれで充分なのではないか。
今年のこの時期の私の思いです。

藤井道子