今では人前に立って話すことに抵抗はなくなりました。聞いている人からすると偉そうに見えるだろうな、と思いながらいつも話しています。こんな私は実は幼いころ全く話さない子どもでした。姉や兄と大分年が離れているせいで、家族の中で私が話さなくても全く問題がなかったからです。初めて幼稚園に行った時も何日間も一言も話さずに長い時間園にいたせいで、家に帰ってから声が出なくなっていました。今では笑い話として話せますが、今でも自分自身をどこに置いて何を誰と話せば良いかわからず立ちすくんでいた時の気持ちを覚えています。
今の時代、コミュニケーション力は大切と誰もが言います。社会に出た時その力がないと大変だということです。しかし、子ども達の中には、他人とうまくコミュニケーションをとるのがあまりうまくない子が少なからずいます。そういった子どもたちは、コミュニケーションをスムーズにすることを諦めなくてはならないでしょうか?いいえ、かつて私が克服したように必ずうまく話せるようになると思っています。まず、大切なのは、話をする大人がその子へ向かう心を開くことです。心が開いている人には目に見えない空気が流れ出て、子どもの心の隙間にその空気が入り込んでいきます。その空気はその子の心をそっと柔らかくして話したいことをスムーズに言葉に変えていきます。その空気に合う合わないはあるかもしれませんが、きっと心を軽くして話せる間柄になれる空気の人を見つけられるはずです。そこがまずスタートです。少しずつ話していきながら次第に慣れて、何かあった時、「あ、あの人に聞いて欲しい。」そう思えるようになれば、もう自然と会話が成り立っていくことでしょう。
コミュニケーションにはまた段階があります。家族や友人といった身近な人たちとの会話、先生や上司といった目上の方たちとの会話、そして大勢の人たちの前での話、などだんだんと難しくなっていきますが、これも経験により慣れていきます。他人との会話で困ることはなくなった私ですが、子どもの幼稚園の保護者の役員になって挨拶した時は床がぐるぐる回るように感じて倒れてしまうのではないかと思いました。が、何回も話す機会を得られたおかげで、一年後最後の挨拶をした時はどう言えば笑いになるか考えていた自分に自分で驚いたくらいです。話す経験を重ねていけば必ず力になります。時に「こういえば良かった。」「どうしてあんな風に言ってしまったのか?」など自分なりに失敗も感じるでしょうが、その失敗もまた大切。そこから学ぶ要素がたくさんあると思います。そして親は、子どもが一生懸命話すことに耳を傾け、うなずくこと、繰り返すこと、気持ちを共有することで、子どもが話してホッとした、うれしくなったという気持ちになってもらいましょう。思春期になるとあまり話さなくなりますが、それも成長のひとつ。案外他人とはうまく話していたりするものです。その時その時の成長に応じてそれなりの対応を。あまり深刻にならず、気楽な思いがまた新たな関係を生むことになるかもしれません。今年もありがとうございました。よいお年をお迎えください。
藤井 道子